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病態生理学部門

スタッフ

高橋 克仁 部長(医師・医学博士) 高橋 克仁メールアドレス
山村 倫子 研究員(薬剤師・薬学博士) 山村 倫子メールアドレス
村井 淳 研究員(農学博士)  
藤原 美恵子 事務職員(医局秘書)  
玉越 智樹 研究員(医学博士)  
森田 未央 研究員(農学修士)  
瀬野 亜季 研究員(理学修士)  
塩野 真梨子 研究員(理学修士)  
平野 典子 研究員(薬剤師)  

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研究テーマ

当部門では、平滑筋肉腫、悪性中皮腫、消化管間質腫瘍( GIST) に対する新規治療薬の開発研究を行っている。カルポニンは 1988 年に高橋らが血管の平滑筋から発見し命名した平滑筋のマーカー遺伝子で、平滑筋肉腫と肉腫型悪性中皮腫、GISTにも発現している。内科、婦人科、外科、泌尿器科、病理細胞診断科の当センター臨床部門と連携し、主として胸部腹部内臓、後腹膜、婦人科領域の肉腫患者さんを対象にした内科・肉腫(サルコーマ)外来を行っている(医師高橋克仁、薬剤師山村倫子)。内科肉腫外来では、手術で摘出した腫瘍標本を当部門で分析し、一人の患者さんの集学的治療を国内17施設で連携して行う(共同治療連携)。2009年11月〜2010年7月までの実績で、全国から紹介を受けた平滑筋肉腫120例を含む肉腫184症例の腫瘍分析と連携診療を行っている。

2011年度には国内共同研究として平滑筋肉腫と悪性中皮腫を対象に第 I/IIa 相臨床試験の開始を申請する予定である。

1)臨床試験 - トランスレーショナル・リサーチ -

平滑筋肉腫、悪性中皮腫、GISTに対する腫瘍溶解性ウイルス遺伝子治療薬の開発
■ 腫瘍溶解性ウイルスによるがん治療は、ウイルスががん細胞に感染し増殖して内部から破壊するため、増殖できないウイルスを治療遺伝子のベクターとして用いる従来の遺伝子治療より強力な治療効果が期待できる。また、最近では腫瘍特異的な細胞傷害性 T リンパ球 (CTL) の誘導など、がんワクチンすなわち全身療法としての効果も明らかにされつつある。ウイルスによるがん治療は、野生型ウイルスを用いた 1950-70 年代を経て、 1990 年代は弱毒化ウイルス、 2000 年に入って組換え型ウイルスの臨床試験が開始された。しかし、従来の「組換え型ウイルス」や「自然変異体ウイルス」ではウイルスによる細胞破壊をがん細胞だけに限定させることが困難であり、安全性を担保しつつ抗腫瘍効果を高めるために腫瘍細胞標的化技術を開発する必要がある。
■ 我々のグループは、 (1) 単純ヘルペスウイルス (HSV-1) の遺伝子発現に必須の転写因子である ICP4 の合成をヒトカルポニンプロモーターで制御し、ウイルス感染後に ICP4 蛋白がカルポ二ン産生細胞でだけ合成されるようにウイルス遺伝子を改変した。同時に (2) ウイルス増殖に必須の酵素であり、腫瘍細胞が多く発現するリボヌクレオチド還元酵素を欠失させる方法を組み合わせることにより、カルポニンを発現する肉腫、悪性中皮腫、 GIST 細胞への標的化と、安全性の向上を実現した組換え型 HSV-1 d 12.CALP Δ RR を開発した(図 1 )。国内外の大学、がんセンター、医療機関と連携し、前臨床試験(実験動物に移植したヒト腫瘍細胞に対する効力試験と安全性試験)を実施中である ( 図 2) 。 d 12.CALP Δ RR は、動物実験では原発巣のみならず離れた場所にある転移巣も次々に破壊した。さらに、最近我々のグループは、上記の基本技術を応用し、固形がん全般を標的化し得る新規換え型 HSV-1 を作製することに成功した。
■ 2005年 10 月には、科学技術振興機構( JST )の研究プロジェクトとして、腫瘍溶解性ウイルス試験薬臨床ロットの GMP 準拠製造が可能な小型・ハイテクのアイソレーター国内第一号機を当部門内に設置した ( 図 3) 。2008年3月には、ワクチンメーカーと共同で、国内でははじめて、腫瘍溶解性 HSV-1 臨床ロットを製造するためのウイルス産生 Vero 細胞のマスターセルバンクを GMP に準拠した方法で製造し米国での生物学的評価試験を終了した。さらに、ワクチンメーカーおよび東京大学医科学研究所との共同研究で、2006−2008年度の厚生労働科学研究費補助金創薬基盤研究推進事業遺伝子治療分野の研究プロジェクト(高橋)を実施した。新規腫瘍溶解性 HSV-1 の開発および安定して HSV-1 を産生するための BAC ベクターシステムを確立した。現在、全塩基配列の決定と生物学的評価試験を実施中である。2008年4月には、平滑筋肉腫と悪性中皮腫を標的化する腫瘍溶解性 HSV-1 の特許が成立した。2011年度までに国内共同研究として平滑筋肉腫と悪性中皮腫を対象に第 I/IIa 相臨床試験を開始する予定である。2008−2010年度の基盤研究( C )(山村)の研究プロジェクトを継続中である。

2)臨床研究 ? 倫理審査委員会・遺伝子解析研究部会承認課題 (No. 0712142075)

肉腫、GISTおよび悪性中皮腫のがん幹細胞の探索とその性状解析に関する研究
■全固形悪性腫瘍の2−3%に相当するこれら中胚葉由来の悪性腫瘍の多くに共通する特徴は、抗がん剤や放射線療法に対する抵抗性であり、再発・転移の経過が早いことである。がん全般において悪性度の指標とされるこれらの特徴は古くから認識されていたものの、肉腫、 GIST および悪性中皮腫のどのような細胞特性または腫瘍内微小環境に基づくものであるのかは長く不明のままであった。
 このような状況の中で、「がん幹細胞」仮説が登場した。@自己再生能と、A元の腫瘍と同じ表現型の腫瘍を形成する能力、Bアポトーシス抑制能をもったごく一部の「幹細胞」が腫瘍を定着させているというものである。白血病については既に「がん幹細胞」が特定されその特徴も明らかにされていたが、固形がんにおいても、最近、脳腫瘍(グリオブラストーマ)、乳がん、前立腺がん、大腸がん、膵臓がん、肝細胞がん、頭頸部がんにおいて相次いで同定された。これらの固形がん由来の「がん幹細胞」は、上記の特徴をもつ他、抗がん剤や放射線に対する抵抗性をもつことも明らかにされた。

■ 最初から抗がん剤や放射線治療に抵抗性のこれら中胚葉由来の悪性腫瘍では、1)「がん幹細胞」の性質をもつ細胞集団がもともと多いのか、2)「がん幹細胞」に好都合な腫瘍内微小環境(幹細胞ニッチ)が広範に維持されているのか、という2つの可能性が考えられる(図4)。本研究は、その問いに答えるものであり、2008年度から文部科学省のプロジェクト(基盤研究( A )(高橋))として 肉腫、 GIST および悪性中皮腫に対する 「がん幹細胞」標的医薬の開発を目指す。我々は最近、3つのがん幹細胞濃縮法、1)フローサイトメーター( FACS )によるサイドポピュレーション( SP )細胞の分離、2) FACS による細胞表面抗原にもとづく分画、3)スフェア形成、を用いて NOD-SCID マウスに少数の細胞で腫瘍を形成し得る GIST 幹細胞( GIST 起源細胞)を濃縮することに成功した( Yamamura H. et al. Workshop at The 67 th Annual Meeting of Japanese Cancer Association, October 29, 2008 )。 2008 年、フランスのグループによるイマチ二ブ中止後の GIST の再燃に関する BRF14 試験の結果が公表された(図5)。これは、 KIT 遺伝子の耐性変異とは異なる再燃機序が存在し、 GIST にはイマチ二ブ不応答性の細胞集団が存在することを示したものとして注目される。我々はこの細胞集団こそが、 GIST 起源細胞と関連しているのではないかと考えている。

3)基礎研究

カルポニン遺伝子による血管再生とがん血管新生の制御に関する研究
■ 自己末梢血血管内皮前駆細胞や自己骨髄単核細胞の移植による血管新生療法が臨床応用され、動脈閉塞性疾患や虚血性心疾患に対して一定の治療効果をあげている。しかし、従来の細胞移植療法では、血管形成能をもつ幹細胞の数が極めて少なく、治療効果を高めるためには幹細胞数を増加させるか血管内皮増殖因子( VEGF )の合成・分泌を高めるなどの工夫が必要であると考えられてきた。一方、大腸がんや腎がんに対し抗 VEGF-A 抗体医薬が臨床応用され、がん血管新生抑制における血管平滑筋の役割や平滑筋での VEGF-A 合成分泌制御の重要性が明らかになってきた。しかし、血管平滑筋など腫瘍組織内の非腫瘍細胞における VEGF-A の合成・分泌を制御するメカニズムはほとんどわかっていなかった。
■ 我々のグループは、血管平滑筋細胞においてカルポニン蛋白を減少させる(遺伝子欠失法、 RNA 干渉法)と、通常 VEGF-A が産生されない正常酸素分圧の状態でも VEGF-A の mRNA および蛋白が増加し、培養液中に過剰に分泌されることを見出した。実際、カルポニンをもたない血管平滑筋細胞をマウスに移植すると血管新生が増強することを確認した。これらの結果は、カルポニンが血管平滑筋における VEGF-A の産生抑制因子であることを示している。また、カルポニン遺伝子の欠失によって腫瘍血管の成熟が抑制され、抗 VEGF 抗体医薬などの血管新生抑制剤の治療効果が増強されることを明らかにした(図6)。これは、腫瘍血管の平滑筋細胞におけるカルポ二ンの発現を調べることによって、あらかじめ血管新生抑制剤に対する感受性を推測することができることを意味している。


























図1 [図を拡大]

図2 [図を拡大]

図3 [図を拡大]
























図4 [図を拡大]

図5[図を拡大]









図6[図を拡大]

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最近の研究業績(論文など)

高橋克仁、山村倫子、腫瘍溶解性ウイルスによる次世代のがん遺伝子治療-悪性中皮腫・肉腫等最難治のがんに挑む- クリニックマガジン8, 24-25, 2009

草間俊行、小高泰一、常峰紘子、赤坂浩司、小泉直樹、藤本康二、坂野 茂、伊藤利江子、近藤武史、北澤荘平、山村倫子、高橋克仁、CYVADIC療法が奏功した肉腫型腹膜悪性中皮腫の1例 癌と化学療法36, 475-478, 2009

Yamamura H. et al. Loss of smooth muscle calponin results in impaired blood vessel maturation in the tumor-host microenvironment. Cancer Sci. 98, 757-763, 2007

Babu J, Celia G, Rhee Y, Yamamura H, Takahashi K. et al. Effects of h1-calponin on the contractile properties of bladder vs. vascular smooth muscle in SM-B null mice. J. Physiol. ( London ) 577, 1033-1042, 2006.

Takahashi K., Yamamura H. Studies and perspectives of calponin in smooth muscle regulation and cancer gene therapy. Adv. Biophys . 37, 91-111, 2003.

Yamamura H. et al. Aberrant methylation and silencing of the calponin gene in human sarcoma cells. Anticancer Res . 23, 107-114, 2003.

Morioka T. et al. Role of H1-calponin in pancreatic AR42J cell differentiation into insulin-producing cells. Diabetes 52, 760-766, 2003.

Sasaki Y., Yamamura H. et al. Expression of smooth muscle calponin in tumor vessels of human hepatocellular carcinoma and its possible association with prognosis. Cancer 94, 1777-1186, 2002.

Yamamura H. et al. Identification of the transcriptional regulatory sequences of human calponin promoter and their use in targeting of a conditionally replicating herpes vector to malignant human soft tissue and bone tumors. Cancer Res . 61, 3969-3977, 2001.

Taniguchi, S. et al. Structural fragility of blood vessels and peritoneum in calponin h1-deleted mice, resulting in an increase in hematogenous metastasis and peritoneal dissemination of malignant tumor cells. Cancer Res . 61, 7627-7634, 2001

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