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生化学部門

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スタッフ

井上 正宏 部長 井上正宏メールアドレス
奥山 裕照 総括研究員(病理学部門)  
遠藤 洋子 研究員  
Piulats Rodriguez Jose Maria 博士研究員  
中嶋 綾 大学院生 (京都大学D3)  
吉田 栄宏 大学院生 (大阪大学D2)  
安田 俊子 技術補助員  
井筒 雅実 技術補助員  
水越 敦子 技術補助員  
貫戸 紀子 技術補助員(外科)  

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研究テーマ

 これまでにがんを克服するため様々な研究が積み重ねられてきた結果、早期がんの治療成績は飛躍的に向上しました。しかし、進行がんの治療は依然として困難で、がんは日本人の死因一位の座を占め続けています。現状を打破するためには、従来の治療法とは異なる視点の革新的な治療法を確立する必要があります。

従来の癌研究では、最適条件で培養された細胞株を用いた実験が主流でした。しかしながら、ヒトのがん、特に進行した固形がんは不完全な血管構築による還流不全のために、低酸素・低栄養・アシドーシスなどの内部環境をもつ部分(低酸素領域)が少なからず存在します ( 図1 ) 。がん細胞はそのような劣悪な環境下でも生存する形質を獲得しています。

がんの低酸素領域は薬剤の到達が物理的に困難であることに加えて、細胞死を回避する形質を獲得していること、細胞分裂が不活発である ( 図2 ) ことから化学療法に抵抗性です。また放射線治療には酸素の存在が必須です。事実、酸素化が良好な腫瘍と比較して、低酸素領域を持つがんの臨床予後は不良であることが明らかにされています。このようにがんの低酸素領域は治療抵抗性の重要な要素となっているため、低酸素領域のがん細胞を標的とした治療を開発する必要があります。

我々の研究グループは、がん細胞が低酸素・低栄養状態に適応するために利用する分子機構の解明を進めています。低酸素・低栄養状態は発がん過程の初期から出現し、そこで生存し得たがん細胞が選択されていると考えられていますが、その分子機構はほとんど明らかにされていません。

研究テーマ1:
 低酸素下でのがん細胞の生存戦略としては血管新生を促進して低酸素状態を解消する戦略や、浸潤や転移によって低酸素環境から逃避する戦略などがあります(図3)。さらに低酸素環境下での限られたエネルギー源を節約する適応現象があります。我々は低酸素下でc-MycやmTORシグナルの抑制が、がん細胞の低酸素耐性に関与することを明らかにしました(文献3.5)。また、細胞自身の酸素消費により細胞が低酸素に陥ることを明らかにしました(文献2)。がん細胞は酸素消費の抑制によって、環境の危機的な酸素分圧の低下を回避している可能性があります。

研究テーマ2 :
 低酸素応答など、がん細胞ががんの環境にどのように応答するかを研究するためには、がん細胞を適切な方法で培養する必要があります。これまで、試験管の中でヒトがん組織から直接がん細胞を培養することは困難でした。試験管の中で生き続けたり増えたりする性質をもつことができたがん細胞だけを選んで培養することは、古くから行われてきました。ところが、培養中にがん細胞がもつ性質が変化してしまうことが問題でした。さらにがん細胞以外の細胞を除去することも困難でした。これらの問題を克服して、生化学部では患者がん組織からがん細胞を培養する新しい方法を開発しました。私たちの開発した方法では、がん組織の中のがん細胞を、もとの性質を失わずに安定して試験管の中で純粋培養することができます。患者様ひとりひとりにとって最適な治療法を選んだり、新しい治療法を開発したりすることにこの培養法を利用する研究を行っています(文献1)(図4)。

研究テーマ3:
  正常細胞から多段階を経て癌化するトランスジェニック自然発がんモデルマウス(RipTag)を用いて、腫瘍の低酸素耐性に関わるとされている遺伝子の関与を、トランスジェニックマウスやノックアウトマウスと交配することによって遺伝的に明らかにする研究を行っています(図5)。我々はVEGF欠失により腫瘍形成が著しく低下する一方で浸潤能を獲得することを示しました(文献4,6)。現在、浸潤能獲得のメカニズムを研究しています。

 これら研究によってがん細胞が低酸素・低栄養状態に適応するための物質的な基盤が明らかになり、それを障害するような既存の薬剤を発見すること、あるいは新たな分子標的剤を開発することによって、低酸素・低栄養状態下のがん細胞に対する新たな治療戦略を模索します。

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最近の研究業績(抜粋)

1. Kondo J, Endo H, Okuyama H, Ishikawa O, Iishi H, Tsujii M, Ohue M, Inoue M. Retaining cell-cell contact enables preparation and culture of spheroids composed of pure primary cancer cells from colorectal cancer. Proc Natl Acad Sci USA, 2011;108(15):6235-40

2. Sato, Y., Endo, H., Okuyama, H., Takeda, T., Iwahashi, H., Imagawa, A., Yamagata, K., Shimomura, I., Inoue, M. Cellular hypoxia of pancreatic β-cells due to high levels of oxygen consumption for insulin secretion in vitro. J Biol Chem, 2011;286:12524-12532

3. Okuyama, H., Endo, H., Akashika, T., Kato, K., Inoue, M. Downregulation of c-MYC protein levels contributes to cancer cell survival under dual deficiency of oxygen and glucose. Cancer Res. 2010;70:10213-10223.

4. Paez-Ribes M, Allen E, Hudock J, Takeda T, Okuyama H, Vinals F, Inoue M, Bergers G, Hanahan D, Casanovas O. Antiangiogenic therapy elicits malignant progression of tumors to increased local invasion and distant metastasis. Cancer Cell 2009;15(3):220-31.

5. Endo, H., Murata, K., Mukai, M., Ishikawa, O., and Inoue, M. Activation of insulin-like growth factor signaling induces apoptotic cell death under prolonged hypoxia by enhancing endoplasmic reticulum stress response. Cancer Res. 2007; 67: 8095-103

6. Inoue M, Hager JH, Ferrara N, Gerber HP, Hanahan D. VEGF-A has a critical, nonredundant role in angiogenic switching and pancreatic beta cell carcinogenesis. Cancer Cell 2002;1(2):193-202.

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